岡山地方裁判所笠岡支部 昭和57年(ワ)1号 判決 1984年9月05日
第一号事件原告
藤田アヤメ
ほか三名
第一号事件被告
丸山昇
ほか一名
第五一号事件原告
藤田アヤメ
ほか五名
第五一号事件被告
丸山誠而
ほか一名
主文
一 被告丸山誠而、同丸山和江は、各自、原告藤田アヤメに対し金一三二万四、九八六円、原告藤田富子、同藤田文子、同藤田義男、同日野時子、同藤田正子に対し、各金三八万九、九九六円、及びこれらに対する昭和五四年一二月二三日から各完済まで年五分の割合による金員を支払え。
二 右原告らの右被告らに対するその余の請求を棄却する。
三 原告藤田アヤメ、同藤田正子、同藤田文子、同日野時子の被告丸山昇に対する請求を棄却する。
四 訴訟費用は、原告藤田アヤメ、同藤田富子、同藤田文子、同藤田義男、同日野時子、同藤田正子と被告丸山誠而、同丸山和江との間においては、右原告らに生じた費用の二分の一を右被告らの負担とし、その余は右原告ら及び右被告ら各自の負担とし、原告藤田アヤメ、同藤田正子、同藤田文子、同日野時子と被告丸山昇との間においては、全部右原告らの負担とする。
事実
(一号事件)
第一当事者の申立
一 原告ら
1 被告は、原告藤田アヤメに対し金二八〇万九二九円、原告藤田正子、同藤田文子、同日野時子に対し各金一一三万五、七八五円、及びこれらに対する昭和五四年一二月二三日から各完済まで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決
二 被告
1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
との判決
第二請求原因
一 本件事故と原告らの関係
被告は、昭和五四年一二月二二日午前八時一〇分ころ、自転車を運転して、井原市門田町五八一番地の一付近の道路を東方に向け直進中、進路前方を自転車に乗り、左折進行しようとした訴外藤田菊三郎(明治三八年一〇月二一日生、以下菊三郎という)に衝突し、同人を自転車もろとも路上に転倒させ死亡させた。
原告藤田アヤメは右菊三郎の妻で、その相続人(相続分三分の一)であり、原告藤田正子、同藤田文子、同日野時子はいずれも右菊三郎の子供で、その相続人(相続分各二一分の二)である。
二 責任原因
本件事故は、被告が、現場の下りの坂道をブレーキをかけることなく、かつ下を向いて前方を注視せずその進路の安全を不確認のまま、急速度で進行した過失により発生させたものであり、不法行為責任がある。
三 損害
1 菊三郎の逸失利益
菊三郎は、妻アヤメ、娘正子(いずれも原告)と同居し、い草、米等の生産に従事していた一家の支柱であつて、高齢者とは思えない程身体は丈夫であつた。
菊三郎の年間農業収入は八〇万円であり、就労可能年数を四年として、生活費と中間利息を控除し死亡時の一時払金額に換算すると金一四二万五、七四八円となり、これが同人の本件事故による損害である。
原告藤田アヤメは、右損害賠償求権の三分の一(金四七万五、二四九円)を、原告藤田正子、同藤田文子、同日野時子は、それぞれ右損害賠償請求権の二一分の二(金一三万五、七八五円)をそれぞれ相続した。
2 葬儀費用
原告藤田アヤメは、菊三郎の事故死により、葬儀並びに納骨費として金三二万五、六八〇円の出捐を余儀なくされた。
3 慰藉料
菊三郎の死亡による精神的損害を慰藉すべき額は、諸般の事情に鑑み、原告藤田アヤメについては金二〇〇万円、同藤田正子、同藤田文子、同日野時子については、それぞれ金一〇〇万円が相当である。
四 結論
よつて原告らは、被告に対し、前記申立どおりの金員の支払を求める。
第三請求原因に対する答弁等
一 請求原因一項の事実中、本件事故の発生日時・場所及び菊三郎が死亡した事実は認めるが、その余は不知。
二 同二項の事実は争う。
菊三郎は、本件事故当時、飲酒のうえ自転車を運転して道路中央附近を東方に向け進行していたものであり、他方被告は、本件事故の発生した路上を、その道路左側端を東方に向つて進行していたものである。
被告は、菊三郎が道路中央附近を進行していることを確認しながら同一方向を進行していたが、菊三郎が左折の合図もせず突然道路中央附近から左折したために、被告は衝突の結果を回避することができず、衝突したものである。
よつて、本件事故は菊三郎の左折の際の後方安全確認義務違反及び左折の合図を怠つた同人の過失により発生したものであり、被告には過失は全くない。
三 同三項の事実は不知。
慰藉料額は争う。
四 同四項は争う。
五 仮りに被告に過失があつたとしても、菊三郎の前記過失の方が甚大であり、過失相殺の主張をする。
(五一号事件)
第一当事者の申立
一 原告ら
1 被告丸山誠而及び同丸山和江は連帯して、原告藤田アヤメに対し金三一五万円、原告藤田富子・原告藤田文子・原告藤田義男・原告日野時子・原告藤田正子に対し各金一三五万円、及びこれらに対する昭和五四年一二月二三日から各完済まで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
との判決
二 被告ら
1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
との判決
第二請求原因
一 訴外丸山昇(昭和四二年一月三日生、以下昇という)は、前記一号事件請求原因一、二項記載のとおり、その過失によつて、菊三郎を死亡させた。
二 原告藤田アヤメは、菊三郎の妻、原告藤田富子は長女、原告藤田文子は三女、原告藤田義男は三男、原告日野時子は四女、原告藤田正子は五女であり、長男亡藤田金一は、昭和二七年八月一六日死亡しており原告らが菊三郎を相続したものである。
三 被告丸山誠而及び同丸山和江は、昇の父及び母であり、未成年者である昇の共同親権者として同人を監督すべき法定の義務あるものであり、未成年者である昇の菊三郎を死亡させた事故による左記損害を賠償する責任があるものである。
すなわち、本件事故による損害は、
1 逸失利益金一四二万五、七四八円
2 死者本人の慰藉料金九百万円
3 本件訴訟に支払う弁護士費用合計金九〇万円
(印紙郵券代を含む着手金合計三〇万円・報酬金合計六〇万円)。
の総合計金一、一三二万五、七四八円である。
このうち、
1の逸失利益については菊三郎の年間農業収入を八〇万円とし、就労可能年数四年として、生活費と中間利息の控除をなし、死亡時の一時払全額に換算したものである。
2については、一般に死者の年齢、家族構成等により原則として、死者が一家の支柱の場合九〇〇万ないし一五〇〇万円、幼児及び老人の場合七〇〇万ないし一〇〇〇万円とされるとする財団法人日弁連交通事故相談センターの基準により、九〇〇万円を相当と判断したものである。
すなわち、本件の場合、菊三郎は現役として農業に従事しており、一家の支柱であつたのであり、菊三郎の死亡は家庭の崩壊をもたらし、一家がチリチリとなり、原告藤田アヤメは娘のところを転々とし、原告藤田正子は職を求めて、関西や四国方面に出かけるなど、今日においても、なおその影響は大きいのである。
四 よつて原告らは、被告らに対し、前記損害賠償金の内金九九〇万円を前記申立のとおり連帯して支払うよう求める。
第三請求原因に対する答弁
一 請求原因一項の事実中、本件事故の発生したことは認めるが、昇の過失は争う。
二 同二項の事実は不知。
三 同三項は争う。
四 同四項は争う。
(両事件の証拠)
一号事件記録に編綴してある書証及び証人等目録に記載のとおり。
理由
(一号事件関係)
原告らの本訴は被告の不法行為責任を問うものであるところ、成立に争いのない甲第二号証によれば、被告は昭和四二年一月三日生れであることが認められ、他方被告の不法行為と主張されている本件衝突事故の年月日が昭和五四年一二月二二日午前八時一〇分ころであることは当事者間に争いがないから、本件衝突事故当時被告は一二歳一一か月余の少年であり、未だその行為の責任を弁識するに足る能力を有していなかつたと認めるのが相当である。したがつて、被告に不法行為責任は成立しえないから、その余の主張事実について判断するまでもなく、原告らの本訴請求は理由がなく、棄却を免れない。
(五一号事件関係)
一 昭和五四年一二月二二日午前八時一〇分ころ、井原市門田町五八一番地の一付近道路において、昇運転の自転車と菊三郎運転の自転車とが衝突し、その結果菊三郎が死亡するに至つたことは当事者間に争いがない。成立に争いのない甲第三ないし五、八、一一号証によれば、昇は、通学の為衝突現場西方の坂道を自転車に乗つて下つてきて東進中、前方約一四メートルの地点に、自転車に乗り道路(幅員約三・五メートル、なお南北に各〇・八メートルの路側帯がある)中央付近を東進中の菊三郎(当時七四歳)を認め、同人の左側(北方)を追い抜こうと考え、速度を減速することもブザーを鳴らすこともしないまま漫然とその後方約三メートルまで接近した際、菊三郎が左折の合図も後方の安全確認もすることなく、左折しようとして急に道路中央付近から左に進路変更したため、両自転車が衝突し、両名とも路上に転倒し、菊三郎はその際脳挫傷の障害を負い、これが原因で同日午後零時三〇分搬送された小田原病院において死亡したことが認められ、被告丸山昇本人尋問の結果中右認定に反する部分はたやすく採用できない。
ところで、自転車はその構造上いつその方向を転換するかもしれない性質を有するから、これを追い抜く際は、その動静に十分注意し、接触しないだけの十分な間隔をとるは勿論、進路幅員の狭いような場合には適宜ブザーを鳴らしまた速度を調節して、衝突事故の発生を未然に防止する注意義務があり、昇の前記追い抜きの方法には右注意義務に違反した過失があるというべきである。なお、昇は、前記一号事件理由中で説示したように不法行為責任無能力者であつたところ、前顕甲二号証によれば、被告らは昇の両親であることが認められるから、昇を監督すべき法定の義務ある者として、昇の前記過失行為により菊三郎に生じた損害を各自賠償すべき義務がある。
二1 菊三郎の死亡による逸失利益 金一一八万七、三九八円
年収 成立に争いのない甲第六号証に基づいて過去三年間の平均所得を算出し、原告藤田正子本人尋問の結果によれば、家族で農業を営んでいたことが認められるから、菊三郎の寄与率を七割と評価すると、同人の年収は年五一万二五六一円となる。
(801,400+588,000+807,294)×1/3×0.7=512,561
就労可能年数 四年と認めるのが相当である。なおホフマン係数は3.564となる。
生活費控除 三五パーセントと認めるのが相当である。
逸失利益は左のとおりである。
512,651,651×(1-0.35)×3,564=1,187,398
2 慰藉料 金八〇〇万円
菊三郎の年齢、その死が家族に及ぼした影響等諸般の事実を勘案し、同人の死亡に基づく相続人全体の精神的苦痛に対する慰藉料額金八〇〇万円であり、原告らの精神的苦痛は右金額に対する各人の相続分の割合でもつて償わせるのが相当である。
3 過失相殺 六〇パーセント
前記一1認定の事故の態様に照らすと、菊三郎にも左折の合図、左後方の安全確認をしないまま、急に左折しようとした落度があり、前記損害のうち六〇パーセントは菊三郎自身の右落度に起因するものとして、これを控除するのが相当である。
(1,187,398+8,000,000)×(1-0.6)=3,674,959
4 相続等
成立に争いのない甲第一号証によれば、原告藤田アヤメは菊三郎の妻、その余の原告らは同人の七人の相続人たる子のうち五名であることが認められるから、原告藤田アヤメの相続分は三分の一、その余の原告らのそれは各二一分の二である。そうしてみると、原告藤田アヤメの相続額及び慰謝料額は金一二二万四、九八六円、その余の原告らのそれは各自金三四万九、九九六円となる。
3,674,959×1/3=1,224,986
3,674,959×2/21=349,996
5 弁護士費用 金三〇万円
右原告らの相続額及び慰謝料額の合計は金二九七万四、九六六円であること、本件訴訟の難易等諸般の事情に鑑みると、原告らが支払うべき弁護士費用のうち金三〇万円は被告らに負担させるのが相当である。そこで、原告藤田アヤメには前記金員に更に弁護士費用分として金一〇万円を加算し、その余の原告らにも前記金員に更に右費用として各自金四万円(合計二〇万円)を加算するのが相当である。
原告藤田アヤメにつき、1,224,986+100,000=1,324,986
その余の原告らにつき、349,996+40,000=389,996
三 よつて原告らの本訴請求は、右金員の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないからこれを棄却し、一号事件、五一号事件を通じ訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 重吉孝一郎)